旧相馬家住宅館長ブログ

重要文化財指定と私の決意

2019年11月11日

旧相馬家住宅の重文指定をめぐって

旧相馬家住宅の今年の開館期間も、残りほんのわずかになりました。

度々申し上げています通り、旧相馬家には運営に対しての公的支援がありません。皆様が支払う入館料ですべて賄っています。もちろん、無報酬でいろいろサポートをしてくださる外部の方々の協力が、運営する上で極めて重要な役割を果たしていることは言うまでもありません。冬期間は、1日に来館者がごく数名というが当たり前で、時によってはゼロの日もあるため、人件費、電気・灯油代など大きな負担になります。ですから、どうしても冬期休館を選択せざるを得ないのです。

当初、1年位で他に保存活動をしてくれる人材を見つけて、代わりをお願いする予定が、数年になりそれから1年延ばしで年月を経過してきました。以前から、私は年齢が80歳を超えて10年の保存活動の節目を超えたら、誰が何と言おうと保存事業から身を引く決心をしていました。大体、10年間も保存活動が続けられるとは思っていませんでした。

それが、保存活動8年目の2018年に急に重要文化財の話が、それまで何度話しに行っても乗り気でなかった函館市のほうから出て、夏ごろから重文指定の話が信憑性をもって話題に上り、12月には決定という運びになったのです。無関心だった市もびっくりしたのではと思います。 

国の重要文化財に指定されるということはどんなことなのか、もちろん大変な名誉であることは間違いないのですが、気になる運営の補助が出るのか、どんな規制、責任が発生するのか、知識がない状態では悦びより不安が大きくつきまとった昨冬の休館でした。その間に、周りでは「めでたいことに対して、祝賀会なり報告会を開いたらどうか」などの話が出たりしましたが、私にするとそんなところではなかったのです。

一冬、考えました。尊敬する昭和女子大学名誉学長・東京工業大学名誉教授の平井 聖先生が函館にいらっしゃるたびに相談をしました。そして、自分自身で出した結論は、やはり国に対する責務を一番重視しなければいけないということでした。10年たったからといって、何が何でも当初の計画通りに保存活動を中止して、最悪の場合は旧相馬家住宅の門を閉ざして、残された人生を自分のために過すという選択は、いくら考えても「可」の答えが出ません。 

最終的に思ったのは、国が重文指定した理由は何なのか? この屋敷を、優れた北の国の文化財として後世に50年、100年、残す為に指定したのでないか? そうであれば、たとえその家と何ら関係なき存在であっても、所有者になった以上、国の思いに応えるのが責務でないかという思いに至ったのです。

今年(令和元年)、4回の重文指定記念のイベント、講演会を催しました。
・4月 無料開放
・5月 筑前琵琶演奏と松前神楽の舞
・7月 重文指定に大きく関与された角 幸博北海道大学名誉教授による「旧相馬家住宅の建物魅力について」の講演
・10月、郷土史家・近江幸雄氏による「函館戦争と函館新選組」、松崎水穂氏による「江差屏風を読み解く」
どの講演会も大盛況のうちに終了いたしました。

近江幸雄氏による講演会

令和2年に向けて

令和2年に向けていくつかの運営方法の変更、また採用をいたします。

(1)休館日の変更
週休2日制(水曜、木曜)を採用いたします。また、11月3日から翌4月25日までを、冬期休館期間にします。

(2)新音声ガイドシステムの採用
これまで、シートとタッチペンをお貸しして運用していた音声ガイド機を、部屋ごとのマーカーをタッチするシステムに変更いたしました。4カ国語の説明が聞けるとあって外国人にも大変評判が宜しいのと、一人のスタッフで多くの来館者に対応できるこの機材。全国の美術館では、同じようなガイド機を有料で貸し出していますが、当館はもちろん無料貸し出しです。まさに、数少ない私のホームランと、内心で秘かに自負しています。

(3)入館料の改定 
一般大人を100円アップで900円に、高校・中学・小学生は変更なし、シニアは従来の80歳以上を75歳以上に年齢を下げて700円のまま、障がい者手帳持参の方は700円にしました。リピーターの方は、受付に申し出て頂くと割引になります。
注目したのは、全国から訪れる方の中にリピーターの数が大変多いことです。本州から4回、5回と、函館に訪れるたびに来館される方もいらっしゃいます。函館はリピーター観光の方のパーセンテージが高いのを改めて実感しました。こういう方こそ大切にしたいと思います。

(4)カフエの開放  
シャガールの絵(リトグラフ)に囲まれた室内で、無料のコーヒーや抹茶を楽しんでいただきます。眼下に函館湾と遠くの駒ヶ岳まで視野に入るパノラマを眺めながら、至福の時をお過ごしください。

私の決意

私が自分に課した責務は、次の保存運営に携わる熱い志を持った人物を見出し、保存事業の継承をすることです。そういう方が見つかったなら、ぜひお会いして話し合いを持ちたいと思っています。譲渡価格など二の次です。よき出会いを期待して、令和2年を迎えます。