旧相馬家住宅つれづれ

新しい旧相馬家に向かって

2020年8月10日

早いもので今年も半分過ぎてしまいました。
新型コロナウイルスの感染騒動で鬱陶しい日々を過ごしているうちに、夏の行事が中止になり、秋が来ようとしています。
残り少ない大切な時間がどんどん少なくなり、淋しい気持ちになります。

一時は廃墟のようだった街も車が走り、人の往来も増え、図書館、美術館、博物館など、ほとんどの施設も開かれました。
このように普段の生活に戻った感じですが、旧相馬家住宅は依然として閉館が続いています。
開館の問い合わせ電話が、日ごとに増えてきました。
先日、函館在住の方から問い合わせの電話が入りました。
2年ほど前に函館に帰郷した方で、年に数度、訪れる友人知人を必ず旧相馬家住宅に案内しているというので、開館の問い合わせでした。
「函館は歴史のある街なので、いろいろ案内するところはあるけれど、函館の経済の歴史を知るには、旧相馬家住宅を訪れるのが一番勉強になるので」とのことですが、同じような話はよく聞きます。

色々悩み考えた結果、旧相馬家住宅は今年度休館をすることにしました。
けれど、果たしてこれでよいのか、今はおおいに悩んでいます。
旧相馬家住宅は、私も含め高齢のスタッフ4名とツアーガイドの方3名で運営されていますが、古い和風建築なので三密になる可能性が高く、コロナ感染の影響が出た場合、以降の公開について大きな支障をきたすことは間違いありません。
国の重要文化財に指定されて間もないのと、函館の観光にとっても大変重要な立場にあるのは承知していますし、何とか知恵を絞ってできるだけ早くに公開を再開すべきだとの助言も頂いています。
しかし、開館したほうが良いのか、閉館を続けるほうが良いのか、なかなか結論を出せず、無駄に日を過ごしているようで明るい気持ちにはなれません。

実は、閉館については、コロナ問題と並びもうひとつ大きな理由があります。
私自身が81歳を過ぎ、最近とみに衰えを感じてきたということです。この建物と出会った69歳当時、つまり平成9年にいろんなことがあって、とにかく1年を目途に先頭に立って守って行こう、その間に新しく保存修復をする方が見つかるだろう、その間だけ仲間を代表して先頭に立とうということでしたが、動き出してしばらくして、所有者から思いがけない話が出て、建物の買い取をせざるを得なくなりました。
事情はどうあれ、所有権の譲渡をしなければ建物の保存は当初から不可能だったのであります。

その後、思ってもみなかった方向に流れ出し、11年も経過し、私は81歳を過ぎ、体力的に限界を超えてしまいました。相棒の妻も80歳を過ぎ、家内とタッグを組んでいる女性も70歳を超え、週に一度病院に通っている現状だし、建物管理者も81歳を超えました。
今までのように、開館を続けることに無理が生じてきています。
それで何年か前に、初代相馬哲平が建築資金の大半を寄付した旧函館区公開堂の館長をしていた大西正光氏に、退職してからの旧相馬家の運営を委ねようと思い、折に触れ会って話をし、私の意向を伝えた結果、その任務を引き受けていただくことになりました。
コロナ騒動はその最中に起きたので、相談の結果、時間がかかるにしてもコロナ感染の落ち着きを待って、まったく新しいスタッフで新しい気持ちで再スタートを切ることにしたのです。
コロナ問題は、全世界的に大きなダメージを与えています、日本国中、全ての産業に大変な影響を与えています。
その中で旧相馬家住宅は、大企業でもなく、代々続く名家の子孫でもない少数の市民が私を中心にして守っています。
私が代表になった主な理由は、購入・修復等の資金を出せる人間がたまたま私しかいなかったからで、資金を出したのも代表者になったのも結果としてそうなったので、強く望んだり、思惑があってのことではなかったのです。

泣き言はこのくらいにして、国の重要文化財指定を受けた以上は、数年でなく、50年100年保存を目指して歩んでいかなければなりません。
マイナスをプラスにするような発想の転換が必要と思っています。
また、重要文化財になったからといっても、国や函館市に甘えてばかりいられません。
先人が残した後世に残すべき国民の財産は、国に頼るだけでなく、私を含めて国民みんなでそれぞれの役割をはたし、守って行くものと考えます。

だって、私たちの後に続く人達の宝になるのだから、当たり前のことでしょう。
大げさかもしれませんが、先人の残した財産を後世につなぎ、その人たちがまた次の人たちに残す……人類の歴史が綿々と続くように。
私たちがこの世に生まれてきた証として、せめて役割の一端でも力を出し合って協力して守って行くことが大切と、最近思うようになりました。

旧相馬家住宅は、確かに取り壊されようとしていました。断じて壊させない!
ものの弾みで全く思ってもみなかった買い取をする羽目になり、苦労して修復をなし、気付いた時には2億円前後の資金が私の懐から出ていました。
私が自分の人生の最後に夢見た計画のため、数十年かけて汗水たらして人の何倍も仕事をしてため込んだ資金です。

結果として、82歳になろうとしている現在は夢も諦めなければなりません。
自分に「これでよいのか?」と問いかける毎日です。
しかし、私に与えられた役割を果たす……そう考えるより仕方がないのです。

国は重要文化財に指定してくれました。外観の大きな修復は国の補助を利用できるようになりました。
函館市の伝統的建築物の補助も、塀や門など必要に応じて決められた範囲の中ですが利用できます。
あと、これから先どうするのか、皆さんに問いかけたいのです。

昨年12月、全国から訪れたお客様を中心としたご縁を持った方約800名の方に、昨年の旧相馬家住宅ニュースに令和2年修復計画を記載して送りました。
12月と1月だけでも、想像をはるかに超えた百数十名の方から温かいご支援がありました。
私は大きな勇気を貰ったと同時に、ご支援いただいた方にお答えしなければならないプレッシャーも感じました。
でも、これこそ官民一体となって大切な文化財を後世の人たちに承継するモデルの、一つの方法ではないかと思っています。

東京をはじめとする大都会でコロナ感染の第2波、3波が発生しようとしています。
苦渋の決断ですが、スタッフと協議した結果、今年は閉館いたします……決めました!

そして、来年度から新しい気構えで再開いたします。どうぞご理解をいただけますよう、お願い申し上げます。