案内図・みどころ

随所に宿る精巧な職人の技と、
和と洋のみごとな調和

旧相馬家住宅は、明治40(1907)年の大火に対し市民の雇用創出・復興を兼ねて建てられた大邸宅です。多くの職人に任せた結果、一軒の住宅内に様々な意匠のある珍しい建物が完成。特に洋間と主座敷は、意匠・技術・建材が優秀なうえに和と洋が調和した近代建築で、函館の景観にも融和している点も評価され重要文化財指定に至りました。貴重な邸内の案内図と、みどころの一部をご紹介します。

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A 玄関 ~ 受付エリア

案内図01 案内図02

1. 起り(むくり)付の切妻造の玄関

屋根が凸状に湾曲した形状(起り)で、屋根自体は本を開いて伏せた形状(切妻造)の玄関です。
起り屋根は日本独特の形状で、商人家屋や庶民の家に使用されました。正面と側面には、かすみ模様の「おさ欄間」が入っています。
玄関式台はひのき、その先に建て込む障子の桟は断面をくさび形とした凝った造りになっています。

案内図03

2. 玄関

玄関は、ガラスを使用した引き分け戸を据え付けています。
天井は、正方形の板を組んだ工法を用いており、高級な書院造に見られる格天井となっています。床は、防火・耐久性・強度などの重要な要件を満たしたモルタル塗りの工法を使った土間となっています。
前室(現 受付)の前には、後に石段を置く手直しを行っています。

案内図04

3. 受付

玄関から洋間に続く部屋は、当初応接室前室として使用されていました。
応接室は邸内唯一の洋間で、両引き込み戸で繋がる前室(現 受付)は、天井と壁を漆喰塗りにしてあり、腰壁で仕上げる施工がなされています。

B 洋間

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案内図05

4. 洋室(洋間、応接室)外観 / 軒下・窓

重要文化財に指定で、洋間は特に高く評価されました。ポイントは、華やかな意匠の素晴らしさと、その優美さを損なわずに工夫を施した機能性です。
外壁は、長い板材を横にした下見板張で、腰壁は竪板張、全体が薄い千草色のペンキで塗られています。
隅柱や窓額縁、軒下の持送(もちおくり)等は、濃密で繊細な植物の彫刻で装飾。窓の上部には歯型に見える装飾(デンティル)の重厚なコーニス。初代 相馬哲平が多額の寄付をした、旧函館区公会堂に比肩する意匠です。
窓そのものは防寒対策として、当時は珍しかった二重窓を採用。さらに隙間風防止対策として、外側の窓は上下に作動し、部屋側の窓は左右に作動する工夫をしてあります。

案内図08 案内図09 案内図10
案内図08

5. 洋室(洋間、応接室)内部

絨毯が敷かれた中央周囲は寄木張の床で、壁と天井は漆喰塗です。
特に目を見張るのが、天井、部屋全体を巡らす縁取りなどの、美しいモールディングです。これらの装飾は、応接室を大変優雅なものにしています。
これらの意匠は、初代 相馬哲平の多額の寄附で再建された、旧函館区公会堂と非常に類似しています。

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6. 洋室(洋間、応接室)天井

照明がついている天井には、菱形紋様や雷紋のモールディング等で優美に装飾してあります。通気口も兼ねた中心の飾りはアカンサスの葉となっています。
この円形の天井は、一般家庭には見られないほどの大きさです。外国人や要人をお招きする応接室としての品格を示すためのものと言われております。

案内図12

7. 洋室の暖炉と床

応接室に備わる暖炉は大理石製で、全体的にヴィクトリアン・スタイルが採用されており、この様式に特有の意匠を見ることができます。
火床の両脇には草花文湿式多色象嵌タイルが張られ、火床の前はモザイクタイルとなっており、神戸のハンター邸(明治40(1907)年、重要文化財)にも見られるデザインです。床はミズナラの寄木張となっています。

案内図13

8. 洋室(洋間、応接室)引き分けの板扉

応接室には、前室(現 受付)に続く両引き込み戸と、廊下に続く片引き込み戸があります。通常は開き戸ですが、引き戸としており大変珍しい造りです。板扉は框(枠)のタモと、美しく彫刻した欅を寄木技法で組み上げています。
特筆すべきは、扉の外側にも同様に彫刻されている点です。和風の廊下とも調和しており、他に類を見ない造りです。

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9. 洋室(洋間、応接室)扉の引き手

室内側の扉の引き手部分は、当時の西洋で大流行していたウランガラスを使用しております。これは紫外線を当てると蛍光緑色に変化するのが特徴的な材質のガラスです。
細部まで行き届いた美意識が感じられると共に、大切なお客様への歓待の想いも見て取れそうです。

C 水まわり(便所・風呂・手洗い)

案内図15 案内図16

10. 風呂

来客用のバスルームで、畳敷の脱衣室と風呂・焚口が一列となる設計となっています。
風呂の引き手は杉、天井はヒバ、天井にある換気口は杉材という建材へのこだわりがあります。換気口にも玄関車寄せの欄間と同様の霞模様をあしらい、些細な部分にも意匠が施されています。窓桟の断面は内丸面(うちまるめん)となっています。

案内図17 案内図18 案内図19
案内図17

11. 便所

風呂の手前に便所があります。掃出し口を備えた大便所、小便所、手洗い所が並んでいますが、現在は収納スペースとして利用。
大便所の床と腰板は漆塗り技法の春慶塗(しゅんけいぬり)で、ケヤキの一枚板で造られています。
障子の桟には松皮菱(まつかわびし)の意匠が施されています。また小便所の床は格子模様のタイル貼りです。

案内図20

12. 明かり取り窓(1階便所)

障子の桟は、上下に菱形を重ねた模様の松皮菱(まつかわびし)を吹き寄せにしています。
吹き寄せとは、2本の間隔を詰めて1組にした、組子(くみこ)を巧みに合わせたもので、釘を1本も使わずに取り付ける技法です。
繊細な伝統技術をモダンに活かした、職人技が際立っています。

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13. 手洗い

洋間から出て主座敷に向かう途中、来客用の手洗いを兼ねた流しが設けられています。
北海道の冬は大変寒く、水が氷るため、上のタンクに水を入れて下から熱することで湯が出るように工夫してあり、当時としては大変珍しかったそうです。お客様への配慮が随所にうかがえる、初代 相馬哲平の精神を垣間見ることができます。

D 廊下・縁側

案内図22 案内図23

14. くれ縁(1階)

縁側にはガラス障子が設けてあり、和風庭園を楽しむことができます。
その縁側は、敷居に対して並行に細い板を並べた「くれ縁」となっており、丁寧な面取りがしてあります。
そして出隅(ですみ)は、板を互い違いになる納める石畳という凝った技法を使った仕上げです。ここでも職人の丁寧な仕事ぶりを見て取れます。

案内図24 案内図25 案内図26
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15. ガラス障子

上下階ともに、庭に面した部分には広い縁側をめぐらしてあり、戸や欄間はガラス障子を用いています。
特に1階のガラス障子は、外側に防犯用鉄棒をはめ込んでおり、さらに上部は広めで下部は狭い幾何学模様の障子で、下部の障子の間隔は人が通り抜けられない設計になっており、美しさを損なわずに、暴漢予防機能も持たせる工夫をしてあります。

E 主座敷と次の間

案内図27 案内図28

16. 主座敷と次の間

書院造の座敷で長さ1.5倍の畳を床と床脇の前に敷き、違い棚、付書院を設けた正式な座敷です。
天井は屋久杉板の竿縁天井を張り、鳳凰を彫刻した欄間、床につがや杉を用いるなど、上質な意匠と建材がみごとです。
主座敷と次の間は柱を最小限にしており、雄大な函館湾の眺望を楽しめます。また最も格式が高いため、縁側は切目縁(きりめえん)となっています。

案内図29 案内図30 案内図31
案内図29

17. 付書院

主座敷から縁側に張り出した、座敷飾りの「付書院」は要注目です。
組子障子の上には、良材を使い匠の技を駆使して、鳳凰を透かし彫りにした欄間をはめ込んでおり、上質な意匠が主座敷に華を添えています。
さらに障子の桟は、見る角度によって違う表情を見せる、繊細な図柄には目を見張ります。

案内図32 案内図33

18. 主座敷の組み入れおさ欄間(1階)

主座敷と次の間を仕切る天井下には、黒漆塗りがみごとな組み入れ格子、竪繁格子(たてしげこうし)の筬欄間(おさらんま)があります。
円形の彫刻には季節の植物が表現され、職人の高い美意識と冴えわたる技術力が見られます。

案内図34 案内図35

19. 掛け軸や屏風

主座敷のほか、多くの和室には床の間が設けられております。
特に主座敷には、幕末に活躍し「幕末三舟」とも言われた、山岡鉄舟、勝海舟、高橋泥舟の掛け軸、次の間には山岡鉄舟の書による屏風など。また貸部屋でご利用いただける居室には、松前藩九代当主の書による掛け軸など、季節によって様々な展示をしております。

F 1階 その他 和室と意匠

案内図36 案内図37

20. 居間(囲炉裏の間)の天井

当主が使用していた部屋の中央には囲炉裏があります。
初代 相馬哲平は、質素倹約でありながら少しでも快適な空間を作るために随所で工夫がみられます。囲炉裏のある居間の2階部分は茶室で、居間の天井に通気口を設けて茶室を温める構造を作っています。暖気が上に行く性質を利用した、見事な工夫です。

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21. 神棚と差鴨居(1階居間)

居間(囲炉裏の間)には大きな神棚があり、家訓のとおり神仏を崇敬する精神が見て取れます。
居間の上方壁面の一部をくぼませて造った(アルコープ(奥行460mm))場所に、神棚を祀ってあります。
神棚の下は縦寸法の高い梁を持つ水平材の差鴨居(さしがもい)となっており、囲炉裏を中心として四周を囲っています。

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22. 仏間

この部屋は6畳あり、主座敷と同様に1.5倍の物入れがあり、両折の障子戸を立てています。この中にはかつて壮麗で巨大なお仏壇がありました。初代 相馬哲平が家訓の一番目にしたとおり、神仏を崇敬していたことが分かります。
8畳の前室には、床と物入があり、落掛(おとしがけ)や物入の框(がまち)には黒檀を使用しています。

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23. 角柄欄間(1階)

仏間の前室(相馬哲平の部屋)の欄間は、角柄(つのがら)となっています。角柄とは、窓枠の隅部分の上部が、縦より横のほうが長い形のものを指します。ちょうど動物の角(つの)のように見えます。
障子の桟は破れ井桁(いげた)という、井の字になるように組んだ意匠のことです。

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24. 透し欄間(1階)

仏間の前室(相馬哲平の部屋)の境目に据えた欄間です。
左から竹、菊、蘭、梅の4種類の植物が彫られており、中国古来では、これらの植物の気品・風格・高潔さを君子のように見立て、「四君子(しくんし)」という総称名で吉祥文様として用いられていました。
この彫刻にも、当時の職人の技と美的センスが見られます。

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25. 三代目の寝室(1階)

この部屋は、右に床・左に床脇の逆床(ぎゃくどこ)の造りで、赤杉を使った磨き丸太の床柱と長押は枕捌(まくらさばき)の納め方をしています。床脇は、上から天袋、違い棚、地袋という構成になっており、床板は漆塗りのケヤキ、床天井は杉材を使用。
天袋と地袋の襖戸には七宝焼の引き手があり、それぞれ意匠の異なる凝った造りです。

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26. 長押・釘隠し・引手

邸宅内の長押(なげし)は、小口が見えない処理をされています。
「三代目の寝室」の正面と側面には折鶴模様の釘隠し、他にも随所に様々な模様の釘隠しが見られます。また襖などの引手も、七宝焼を巧みに使った多彩な模様があります。細部にまで小粋で雅な装飾が施されており、一軒の庶民住宅で、これほど多くの意匠があるのは珍しいそうです。

G 二階エリア

案内図46 案内図47

27. 茶室(2階)

茶室として使われていたという2階の山側に面した部屋。
1階の囲炉裏のある居間と通気口で繋がり、暖気を取り入れる工夫があります。床は釣床、丸太の落掛けを使用。天井はケヤキを使った鏡天井、長押下には白漆喰の壁、その上には砂壁という施工です。襖の引き手には七宝焼、明り取り用の欄間は数寄屋風の意匠が見られます。

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28. 八畳和室と六畳和室(2階)

2階の海側に面した八畳間と六畳間は続き間となっており、当初は家族用の寝室にしていましたが、三代目の頃は客間として用いていました。
天井は棹縁天井(さおぶちてんじょう)、天井板には派手な杢目の杉材が張ってあります。
床は逆床を採用しており、磨き丸太の床柱と長押の取合部は、ひな留めで納めてあります。

案内図50 案内図51

29. 下地欄間・引手・釘隠し

茶室には、下地欄間が設けられています。数寄屋建築に多く見られる意匠で、竹の格子に藤蔓(ふじづる)を絡ませたシンプルな造りです。数寄という言葉は「茶の湯」を意味し、数寄屋造とは茶室風の建築様式のことを指します。この工法は、室町時代から茶室に使用され始め、自然の材料を用いるのが特徴的な手法です。また、2階の各部屋でも釘隠し、引き手の七宝焼などの意匠が楽しめます。

H 資料室(1階・2階)

案内図52

30. 資料室(1階)

玄関を入って左手には、初代 相馬哲平と代々の哲平にまつわる品々が展示してあります。
特に、初代 相馬哲平夫妻の写真や、主な寄付先一覧やその費用が使われた建物などの写真は、一見の価値ありです。

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31. 大火資料室

明治40(1907)年の大火によって再建された建物は、大正10(1921)年の大火が飛び火し、大事は免れるも一部を焼かれてしまいました。
その焼け跡をそのままにしてあり、焼けただれた梁などをガラス越しに見ることができます。そして、度重なる大火後の市民や街の様子を写した写真パネルの展示もあります。
全国でも100年前の木造の大火焼け跡が見られるのはここだけでしょう。

I 土蔵・カフェ元町(1階)

案内図54 案内図55 案内図56
案内図54

32. 土蔵

土蔵は2階建てで、桟瓦葺、切妻造の建物です。外壁は漆喰塗りで、軒蛇腹(コーニス)で囲み、外壁の仕上げは簓子下見板(ささらこじたみいた)を張っています。上下階ともに窓があり、縁に段を設けて漆喰を塗った、掛子塗り(かけごぬり)の工法が用いられています。
内部は、上下階ともに板敷です。土蔵内部は歴史的美術館「歴史回廊」として公開しています。

案内図57

33. 土蔵の扉

函館は大火が多く、明治以降の大火(100戸以上を焼失)は26回に及びます。そのため大切な品々を保管する土蔵は、厳重な防火対策がしてあります。
出入口は、外壁は漆喰塗りの観音開きの扉、塗り込めの引き戸、板戸、網戸の四重という堅牢な造りです。さらに火災発生時には、窓などにお味噌を塗って火の粉の侵入を防いだそうです。

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34. カフェ元町(1階)

五代目当主夫妻の居住空間として使用されていた場所で、現代風に利用しやすく改築されています。
そのため重要文化財としては指定されていませんが、この部屋の窓からは函館湾が一望でき、かぐわしいコーヒーとお抹茶をご堪能いただけます。
さらに現館長が集めた美術品も楽しむことができます。