保存と修復

取り壊し寸前の邸を買取り、
保存と修復を経て未来へつなぐ

元町にある基坂を山側へ向かう途中、函館の歴史的建造物「旧相馬家住宅」が優雅に佇んでいます。
北海道屈指の豪商の本宅でしたが、老朽化により売り出され取り壊しの危機に直面。1人の市民が私財を投じて買取り、大規模な修復と丁寧な保存により華麗に蘇り、2018年には国の重要文化財に指定されました。

保存と修復

函館の礎を後世へ

旧相馬家住宅の保存と修復に対する、熱意と想い

函館出身で近所に住んでいた時期もありましたが、当時の相馬家の邸は我々庶民と別格な威厳と近寄りがたさを感じていました。70歳近くになり、その相馬家の邸が壊されるという話を聞き行ってみると、青春時代に畏怖の念を感じていた面影は一切なく、変わり果てた姿に愕然とした記憶があります。その後、何度も通っているうちに「自分の青年時代から憧れだった相馬哲平の屋敷を残したい!何か良い方策はないだろうか」と思うようになり、多くのご支援を受けて旧相馬家住宅の保存と修復をしてまいりました。 平成30(2018)年には国から重要文化財の指定を受けることになり、改めて厚く御礼申し上げます。

国指定重要文化財 旧相馬家住宅
代表 東出伸司

取り壊しの危機から
9年。重要文化財指定までの道のり

函館の大恩人である相馬家住宅の解体阻止のために購入

函館の大恩人である相馬家住宅の
解体阻止のために購入

初代 相馬哲平は、函館の経済、医療、教育、文化に多大な恩恵を与えた人物です。
バブル以降、函館の古民家は次々に取り壊され、ついに平成20(2008)年、相馬家の住宅も競売にかけられ解体の危機に。
現オーナーである東出は、解体回避ために市に掛け合ってみましたが事態は好転しません。
見納めに邸宅内を見せてもらうと、良質な建材を使用した廊下、床、柱には大きな損傷はなく、さらに素晴らしい意匠を凝らした欄間を見つけます。函館の大恩人の邸宅というだけでなく、資産価値が高いと判断した東出は、いずれ歴史に造詣の深い高所得者に売却できる可能性も兼ねて、解体阻止を目的に平成21(2009)年に購入へと至りました。

「旧相馬邸」の一般公開と「旧相馬邸保存会」の発足

「旧相馬邸」の一般公開と
「旧相馬邸保存会」の発足

邸内を掃除していた時のこと。何組かの観光客から「中を見ることは出来ますか?」と聞かれたことが転機となり、急遽半年後には「伝統的建造物 旧相馬邸」として開館することに。
当初は価値を認識してくれる資産家を探す予定が、観光客からの一言での大転換でした。そもそも一般市民にとって、足を踏み入れることなど叶わない豪邸でした。そこを「旧相馬邸」として公開するのは、函館の貴重な観光資源となりえ、さらに老朽部分の修復や保存資金を工面できる可能性も視野に入ってきました。
そして新聞等で「旧相馬邸」の一般公開を紹介されたことが契機となり、函館市民に伝統的建造物を維持したいという機運や使命感が高まりました。さらに平成24(2012)年3月2日、発起人12名による設立総会により「旧相馬邸保存会」が発足し、函館市民や企業様から年会費1千円で会員を募り、修復費をねん出することになりました。

修復・保存に迫られた困難と重要文化財申請への芽生え

修復・保存に迫られた困難と
重要文化財申請への芽生え

重要文化財申請を意識し始めたのは、「旧相馬邸」を公開後の平成23 (2011)年頃のこと。
東日本大震災が起こり、主屋・土蔵の屋根瓦3500枚を交換する大規模修繕が必要になりました。同時に築後約110年の邸のため、耐震化など建物を保存するための補修も必須課題として浮上。
修繕にあたり、来館者に寄付瓦をお願いしたり、入館料を当てたり、伝統的建造物に市から指定を受けていたことで修繕補助は出ましたが、それでも大規模修繕には資金が足りません。
すでに建物購入や展示物の補修などで、約2億円の私財を拠出していたため、これ以上のことは困難です。
そのような時、東京工業大学名誉教授で建築史家の平井 聖氏より、重要文化財に向けたアドバイスが契機となりました。

当時の技法にこだわった大規模修繕と重要文化財指定

当時の技法にこだわった
大規模修繕と重要文化財指定

先述の平井 聖氏による重要文化財指定へのアドバイスは、修復・保存の困難を打破する一筋の光明を与えました。その助言により、平成26(2014)年には建築当時の技法・工法にこだわった、屋根瓦の修繕が完了。そして最大の懸案事項が終結したことで、重要文化財申請を行いました。
函館は、すでに5件の伝統的建造物が重要文化財指定を受けております。そのような土地柄もあり文化庁職員が、函館に出向きやすい条件が整っていました。その影響もあってか、平成30(2018)年に重要文化財として旧相馬家住宅が国の指定を受けることになりました。
重要文化財指定になるということは、国から補修費用を折半してもらえるほか、宣伝効果も期待できます。しかし税金が使われる訳ですから、邸を維持する人間にとっては、ずさんな管理は許されないという強いご法度を課すことも意味します。
今後、多くの方からのご支援に感謝しつつ、国からの指導を受けながら残された修復作業を行い、函館の礎となった初代 相馬哲平の郷土報恩の精神を伝えてまいります。

「旧相馬邸保存会」
発足と多数のご支援

平成21(2009)年に邸を購入しましたが、老朽が激しかったため、何度も修理工事が必要な状態でした。そして、平成23(2011)年12月からは、主屋の内外を大規模に修理する工事を行っていました。その工事中に、保存活動とサポートを目的とする方々によって「旧相馬邸保存会」を設立いただき、どれほど大きな後押しとなったか分かりません。改めて感謝申し上げます。皆様のおかげで保存活動が実を結び、平成30(2018)年に国の重要文化財指定を受けることが決定しました。
私とボランティアスタッフは、さらに気持ちを引き締め、美しい状態を保存できるよう邁進いたします。
これまで、皆様から多くのお力添えをいただきましたこと、心より御礼申し上げます。

国指定重要文化財 旧相馬家住宅 代表 東出伸司

旧相馬家住宅の保存活動をサポート「旧相馬邸保存会」

旧相馬家住宅の保存活動をサポート
「旧相馬邸保存会」

函館には、函館四天王や高田屋嘉平、岩船峰次郎など、多くの篤志家として名を馳せた商人が存在しており、初代 相馬哲平もまた函館の大功労者です。
その相馬哲平の邸宅は、平成20(2008)年12月に取壊しの危機に直面。その際、現オーナーである東出伸司氏が、私費を投じて購入し修復工事を開始するに至りました。
新聞等で経緯を知った市民は、旅行会社のツアーに組み込む提案、ガイドスタッフを紹介するなど、銘々の方法で支援を模索するようになりました。そして平成24(2012)年3月2日、函館市指定伝統的建造物 旧相馬邸(現 国指定重要文化財 旧相馬家住宅)の保存活動のサポートを目的とした「旧相馬邸保存会」を設立。

旧相馬邸保存会による支援活動実績

旧相馬邸保存会による支援活動実績

「旧相馬邸保存会」の結成は、邸の保存活動のサポート、とりわけ主屋と土蔵の屋根の修復支援が主な目的でした。
修復工事は、当時の手法・技術を再現した、瓦と屋根の修復を試みました。そのため、現存する瓦を可能な限り使用しても、現代の工事費用より2~3倍の費用に膨らむことになりました。
無事に工事が完了したのは、「旧相馬邸保存会」にご加入くださり、全国各地から寄せられたご支援が大きな支えとなりました。

「相馬邸保存会」
解消のお知らせ

旧相馬邸時代の修復工事等に多くのご理解とご支援をいただき、平成30(2018)年、国の重要文化財として指定を受けるができました。 これもひとえに皆様のご支援の賜物と感謝申し上げます。 実は「相馬邸保存会」の発足当時は、大変多くのご賛同者様よりご支援やサポートを受けておりました。しかしながら2年目からは、実質的に会長の落合治彦氏が孤軍奮闘してくださる状態でした。そのため、この度の重要文化財登録を契機に、「相馬邸保存会」を解消することと致しました。 これまでの皆様の篤いご支援に、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

国指定重要文化財 旧相馬家住宅
 代表 東出伸司